Columnコラム

【経営力強化】組織は戦略に従うのか?

UPDATE:2016/01/27

経営学の中で、「戦略と組織の関係性」が根源的な議論の対象になることがあります。企業経営にとって見方の割れてしまう永遠の命題ともいえるところです。
代表的な2つの考え方がありますので、ここで整理してみましょう。

戦略と組織について、最初に提起されたのは、経営学において世界的な権威であるアルフレッド・チャンドラー氏による「Strategy and Structure(1962年」においてです。
アメリカの成長企業4社の組織改革の事実をもとに「経営戦略に従って、組織構造も変革される」を導き出し、あの有名な「組織は戦略に従う」という考え方を唱えました。
マネジメントの権威でもあるピーター・ドラッカー氏も全面的に支援し、次のように述べています。

「組織構造は組織が目的を達成するための手段である。組織構造に取り組むには目的と戦略から入らなければならない。
これこそ組織構造についてのもっとも実りある洞察である。(「マネジメント」より)」

一方で、事業拡大マトリクスなどで現在も企業経営に大きな影響力を持つイゴール・アンゾフ氏は、「Strategic Management(1979年)」において、「戦略は組織に従う」と提唱して世界的な反響を呼びました。
アンゾフはもともとチャンドラーの論文に敬意を払っており、充分研究した上で発表した内容なので大変注目されます。
大企業は戦略優先で組織づくりをする場合が多いが、中小企業は戦略実行に限界があり、組織の力量に応じた戦略しか立案できない。自らの力量を無視した経営戦略は机上の空論となってしまうケースが多いという理由です。

その後、「組織は戦略に従う」という考え方は、マーケティング界の最高権威者ともいえるマイケル・E・ポーター氏の「競争の戦略(1980年)」、すなわちポジショニングによる競争戦略に引き継がれ、「組織は戦略に従う、戦略は産業構造に従う」という考えに発展させ、バリューチェーンという観点から産業をとらえます。
80年代世界のコンサルタントは、企業の競争戦略の標準系としてこの戦略論を扱い、企業革新を説いて回ったと言われます。

一方、「戦略は組織に従う」という考え方は、1990年ゲイリー・ハメル氏とプラハラード氏がハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した「コア・コンピタンス経営」(競合他社に真似のできない核となる能力を軸とした経営)が再起点となります。
そしてポーターの戦略論と対極的な理論となる、J.B.バニー氏の「リソース・ベースト・ビュー(1991年)」(企業内部に蓄積される総合的なケイパビリティが競争優位の源泉である)という考え方などから拡がっていきます。
そして、ジム・コリンズ氏の「ビジョナリーカンパニー2(2001年)」における「バスに乗せる人を最初に選び、その後に目標を選ぶ」という、人の能力を軸にした経営が重要である、という考え方に行き着いていくのです。

まとめますと、ポーターは「競争は外にある」と説き、相手があって、相対的に自社の戦略が決まると考えます。
対して、バニーは「内部の経営資源こそが戦略の源泉である」と説き、独自の強みを活かした戦略を打ち立てることが重要であると考えます。
スポーツでたとえると、相手を分析し対抗策に沿って戦うシナリオを立てようという考え方と自分のチームの良さを出して戦おう、普段の練習通りにやりましょうという考え方です。

どちらが正解でどちらが間違っているといわけではありませんね。私の考え方を組み込んで解釈すると、組織に少しだけ意味づけして、

「組織構造は戦略に従う」(組織は戦略を実現する機能として設計されるから)
「戦略は組織文化に従う」(戦略が正しくても、人や組織にフィットしていなければ、やり抜くことができないから)

以上のように解釈してはいかがでしょうか。

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※「ミッション・バリュー・ビジョン」をベースに組織文化は形成され、その組織文化に合った納得できる戦略を策定する。その戦略に沿って合理的な組織構造を設計する。
特に中小企業、ベンチャー企業では、「何をやるかはわかっていても、誰がやるのかが付いてこない」という話を経営者から多く聞きます。
1人1人の個性を大切にしなければならない中小企業(社長の個性が一番強いですが)と多くの資源を持ち使い方に幅(選択肢)がある大企業では、戦略論の扱い方が違って当然です。

ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2015年12月号で、サーバーエージェントの藤田晋氏が「人材が先、事業は後」という考え方について取材を受けています。
同社は創業18年目、人材の流動性が高いインターネット業界では珍しく、終身雇用を宣言した人事制度を運用しています。
人材重視の経営が最も重要であり、社会のため、会社のため、仲間のため、一生懸命やるという企業文化を最も重視し、それが優位性になる経営を目指していると語っています。

「事業戦略を考え、それに基づいて採用した人材を起用していく」のではなく、「企業に所属する人材の資源を把握し、その能力を活かして業績を伸ばそう」という発想です。
「先に人材を採用するというスタンスで、事業内容は若く能力の高い人材が面白がってくれて、なおかつやる気を出してくれそうな事業を選ぶ」、「人材に合わせて事業戦略をつくるという基本理念」であるとはっきり語っています。

なぜそのような発想に至ったかというと、自分が就職したころ(97年)のリクルートの人材力、カルチャーに影響を受けたそうです。
「彼らはやる気と情熱とモチベーションのレベルも高い。リクルートに集う人材そのものが、他を寄せつけない競争力になっていた」そのように語っています。
それで、リクルートと同じように「採用力」に力を入れ、働く環境づくりに経営者として力を入れてきたそうです。
まさに、「戦略は組織文化に従う」ではないですか。

企業へのロイヤルティや仕事へのモチベーション、職場の人間関係、優秀な社員の離脱など、人と組織の問題が根深くなってきている現在、優れた戦略を考えるだけでは、足元をすくわれかねない状況にあると感じます。
組織が弱体化しては、前に進むことができないばかりか、加速度的に競争力が衰えます。そもそもかつてから日本企業には、人本主義、長期雇用、家族主義、その代り滅私奉公など、お互いバランスの取れた関係性にあったと思います。

「リクルートにいた時は、厳しかったけど、楽しかったなあ」と思い出しながら、会社と社員の良い関係、「社員を大切にすることが先、事業は後からついてくる」という考えを大切に、これからもお客様のお役に立とうと、新年決意を新たにしました。

 

(コンサルタント 和田 一男)

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