UPDATE:2016/07/21
企業の成長は自動的には起こりません。事業の成長によって必然的にもたらされるものではないのです。事業の成長と組織のあるべき姿は一致しないケースが多く、バランスが難しいのです。
企業という組織体の成長も生物と同じように、ある段階で変態する必要に迫られます。さなぎから蝶になるのです。世界が変わります。ステージを変えるのです。
成長は不連続です。過去の延長線ではありません。成長のためには、自分がそうなりたいという姿(ステージ)に焦点を合わせ、自らを変えなければなりません。成長に必要な人材や技術や制度、風土や価値観を仕組みとして次々と組み込んで体質を変えていくのです。西洋的治療(部分強化)という手術よりも、東洋的治療(全体観)、全体バランスを大切にすべきです。あるべき姿から逆算すると、今までのやり方を捨てることになり、痛みや混乱も伴います。そのためには経営トップの「変わる」ということに対する強い意志とシナリオが必要です。
成長そのものを目標にすることは意味があるでしょうか。お客様が増え、社会的影響力が増します。しかし大きくなること自体が目的ではないでしょう。良い企業になることが正しい目標です。規模の成長は虚栄でしかありません。また長期にわたる高度の成長は不可能であり、不健全さを招きます。あまりの急速な成長は組織に混乱と弱体化を招きます。
いかに成長をマネジメントしたらよいでしょうか。体質を強める「成長の計画(シナリオ)」を持たなければなりません。そして合理的な成長目標を持つ必要があります。
まず事業として生き抜くため、市場地位を確保するための、死守しなければならない最低限度がどこかを検討します(ランチェスター戦略の理論ではシェア6.8%が競合として認められる最低ラインと言われます)。組織の成長は物理用語ではなく、経済用語です。量ではなく、成果の面で成長することです。先に質を変えるのです。実際、企業は業績に貢献しない活動を切り捨てる決断をすることによっても成長することができます。
また、成長の最適点も検討します。リスクと成果のバランスです。「それ以上成長すると資源投下に対する生産性が犠牲になる点」、「収益性を高めようとするとリスクが増大する点」はどこにあるか。最適点を成長の上限とします。最高点をいきなり目指すと不健全になる可能性が大きくなります。
成長のための最適な機会がいつ訪れるかは予想できません。しかし準備しておかなければなりません。トップ自らの役割、行動、他者との関係を変える意志と能力を持つ必要があります。必ず変化の予兆はあります。変化すべきタイミングを感じ取ったら、新しいトップマネジメントチームを編成しなければなりません。自らが体験したことのない未知の世界で戦うには、外部の経験者や専門家の力を借りたほうが道筋をつけやすくなります。新しいステージでは新しい武器が必要となるからです。すべてを自前で揃える時代ではありません。経験と時間を買うのです。
機会を目の前にして、もしトップ自身が企業の成長を望まない、過去の成功体験から抜け出せない、自分に満足してしまっているならば、バトンタッチするときです。成長ステージによって、求められる経営者の資質が違うからです。
参考文献)
「マネジメント(下巻)」P.F.ドラッカー著
「小さな会社こそが実行すべきドラッカー経営戦略」和田一男著
【コンサルタントプロフィール】
和田一男 (株式会社ブレインパートナー 代表取締役 組織変革・営業変革コンサルタント) 北海道小樽市出身。(株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント取締役。大学卒業後、1985年(株)リクルート入社。2000年独立し、(株)ブレインパートナー設立、代表取締役就任。経営力強化、実行力強化支援、営業力強化コンサルティング、実行機能としての組織構築、組織変革コンサルティング、人材育成、人事評価制度構築、目標管理制度運用支援を行っている。著書「30歳からの営業力の鍛え方」(かんき出版,2006年)、「ドラッカー経営戦略」(明日香出版社,2012年) |